開業資金 融資と資金計画の基礎

はじめに

このサイトをご覧になっているあなたはおそらく開業資金のことで悩まれていることと思います。独立を夢みてある程度貯金はためたが、これからいくらかかるかわからない、金融機関は果たして申請した額を貸してくれるのか、あるいは、金融機関の審査にそもそも通るのだろうか・・・・・・不安や悩みはつきませんね。

しかし、だいじょうぶです!ご安心下さい。事業計画には押さえるべきポイントがあり、そこをきちんと押さえて提出する書類を準備すれば、融資の審査は怖くありません。また、理論にのっとって作成した書類は、事業開始後に経営初心者が犯しがちなミスを防ぐ役割も果たしてくれます。

このサイトは、独立を目指す個人や新規事業を考えている個人事業者を中心に、開業資金の計画をある程度シュミレーションできるよう、その理論をお話ししていきます。

開業融資の基本を知る

1、開業資金の調達は、日本政策金融公庫を利用する

「独立開業するのに銀行は簡単にお金を貸してくれないんじゃないの?」・・・・・・そのとおり。あなたの疑問は正解です。

確かに実績のない個人にリスクの高い新規事業資金を貸すような事例は、あまり多くありません。しかし、それは民間の銀行に限ったお話です。政府系金融機関である日本政策金融公庫なら開業融資にも積極的です。なぜなら国は、産業の発展と雇用の創出をするという役割があるからです。しかも、公庫の場合、無担保8割以上、保証人なしも8割以上です。個人事業を開始する人は、これを利用しない手はありません。

2、ただし、甘く考えていると審査は不許可になる

公庫に申し込めば開業資金を借りることができるということを知らない人がいる一方で、ネットや本などを見て公庫だったら簡単に貸してくれると勘違いしている人もいます。

公庫も一企業として活動している以上、貸し出したお金はきちんと回収したいと考えています。生半可な事業計画書を出せば、ちゃんと審査ではねられます。しかも一度却下されると6ヶ月間は再申請しても許可がおりません。

ですから、しっかりと計画を練り、それぞれどういう根拠でその金額が算出されたのか、きちんと担当者を納得させられる収支計画書を作る必要があるのです。

3、無借金創業は本当にリスクがないのか?

ずさんな計画で借金をするのはいけませんが、できれば借金をしたくないということで自己資金だけで創業したがる人もいます。一見、堅実そうですが、無借金創業は本当にリスクがないといえるのでしょうか?

まず、想定しておかなければならないこととして、事業開始後、一般的に6ヶ月くらいは赤字が続くということです。日本政策金融公庫が発行する『新規開業白書』でもそうした統計が公表されています。

さて、ぎりぎりの所持金で事業を始め、例えば4、5ヶ月目で資金が底をつきそうになったとき、あなたはさっさと事業から撤退することができるでしょうか?もちろん、明らかに撤退したほうがいいケースもあるかもしれませんが、しかし、後もう少しで何とかなりそうだという場合、たいていの人は資金集めに走ることになります。そのとき公庫に申請しても、審査に時間がかかるうえ、赤字になってからの申し込みのため審査は事業開始前より厳しくなるのがふつうです。そんなとき商工ローンから営業の電話がかかってきたりすると、思わず飛びついてしまうということがおきるのです。(実際、事業をはじめると、いろいろな業者から営業を受けるようになります。)こうしたノンバンクから一度借りてしまうと、高額な金利でいつまでたっても元本を返せないとう悪循環に陥る危険があります。

そんなことになるのであれば、開業前の借りやすいときに金利の安い公庫を利用し、余裕資金をストックしておくべきだと思いませんか?そうすれば赤字になっても心に余裕ができますから、ノンバンクに手を出したり広告費を削ったりするなどのばかげた失敗を防ぐことができます。

理想を言えば、生活費として6ヶ月分くらいを事業資金とは別にキープしておきたいものです。例えば今1000万円で開業しようといているなら1000万円をそのまま事業につぎ込むのではなく、500万円は生活用に分けて、開業につぎ込む自己資金を500万円とし、残り500万円は公庫から借りて事業を始めるのです。精神的にも余裕ができますから、より健全な運営ができるようになります。もちろん、借りたお金の利息は発生しますが、公庫の場合、超低利ですし、財政危機になったときの保険料と考えれば、安いものです。ぎりぎりの資金で右往左往するより、よほど健全な経営ができると考えます。

4、金融機関とつきあうメリットを知っておく

事業資金を借りて着実に返済していけば、信用が生まれ、ある時期から金融機関のほうから借りてほしいと言ってくるようになります。事業を大きく発展させたいのであれば、早いうちから政府系金融機関、信用金庫、第一地銀といったようにいろいろなジャンルの銀行と取引できるようにしておくことをお勧めします。そうすれば新しい支店や店舗を出すとき、スムーズに借り入れができるようになるばかりか、不況や天災で不測事態の資金が必要になったときも借りやすくなります。

これに対して、取引の実績がないまま事業運営していると、天災やトラブルなどで大きな損失を出したとき、急に金融機関に行っても、あまり相手にしてもらえません。その結果、事業が行き詰まってしまうリスクもありますから、金融機関とは普段からつきあって、取引実績、返済実績を積み上げておく必要があるのです。

よく「銀行は晴れの日は傘を貸すけど、雨の日は貸さない」と言いますが、晴れの日に取引実績をつみ、そのうえで健全な事業運営をしていれば、雨の日にもちゃんと貸してもらえるようになります。逆説的ですが、むしろ晴れの日こそ、まさかに備えてあらかじめお金を借りておくべきです。

5、公庫が使えないときは、信用保証協会(自治体の制度融資)を!

日本政策金融公庫が使えないときは、信用保証協会の保証がついた自治体の制度融資を利用します。

信用保証協会は、中小企業が市中金融機関から融資を受ける際に、その債務を保証する公益法人です。制度融資は、自治体と信用保証協会と指定金融機関が協調することで中小企業が金融機関から借り入れしやすくするための制度です。

この場合、信用保証協会が直接お金を貸すのではなく、貸すのはあくまで銀行です。信用保証協会は保証料をとることで保証人の代わりに債務の保証をする役割を担います。

公庫の開業融資は、自己資金が総資金の3分の1以上という要件がありますが、自治体制度融資にはこの要件がないものがあります。このため自己資金が少ない人が自治体融資を申し込むというケースも少なくありません。ただし、自己資金が極端に少ない場合に、制度融資に頼ればなんとかなるという安易な考えはいけません。その理由は次項で説明しましょう。

6、自己資本のルール

前述のとおり公庫の開業融資は、自己資金が総資金の3分の1以上というルールがあります。つまり、たとえば1500万円で事業を始めたい場合、借りることができるのは最大1000万円までで、残り500万円以上は自分で用意しなさいということです。

この3分の1ルールには理論的根拠があります。財務分析で使う「自己資本比率」という経営指標がありますが、一般にこの比率が30%以上なら財務的に安全だと考えられています。自己資金3分の1は約33%ですので、だいたい当てはまっています。これに対して、自己資金ゼロは自己資本比率0%ということですから、理論上、財務的に危険水域ということになります。

ですから、確実な取引先が確保されている、あるいは強力な商品や技術があるという場合以外は自己資金ゼロというのはあまりお勧めできません。審査のうえでも自己資金ゼロの場合は、資格条件にあげられてなくても自己資金がある場合に比べ厳しくなることが予想されます。また、自分で用意したお金がまったくないということは、面接官に事業に対する熱意を疑われることにもつながります。もちろん、それをくつがえすだけの説明ができればそれはそれでかまいませんが、数字の要件には見えないハードルがあるということは予め知っておくべきです。

融資の審査に通る資金計画の基本を知る

1、開業資金の算出・計画は、合理的根拠が必要

さて、ここから開業資金をシュミレーションする具体的方法に入りますが、融資の申請に準備する書類は、資金調達運用表のほかに12ヶ月分の収支予定表の提出が必須だと思って下さい。後者は募集要項で必ずしも要求されていませんが、出すのと出さないとでは金融機関担当者の評価は全く違います。この計画の内容に合理性があれば、かなりプラスになると思ってよいでしょう。これらをふくめた創業計画書(事業計画書)を作成する際、政府の出している各種統計を使って数字に合理性をもたせます。とりわけ、日本政策金融公庫総合研究所が出している『小企業の経営指標』は頻繁に使います。多くの人は適当に数字を書いていますから、こういったものを参考にすることでかなり差をつけることができます。

2、目標売上の出し方

目標売上の計算方法は、他のすべての数値の計算のベースになりますから、しっかりと理解して下さい。目標売上は、以下のようにまとめることができます。

(1)平均売価(客単価)に予想客数を掛けて割り出す。

(2)確保できている取引先、あるいは確保が見込まれる取引先の受注から、売上を予測する。

(3)『小企業の経営指標』(日本政策金融公庫総合研究所)の数値から算定、検証する。

(1)について予想するには、ある程度の経験やデータが必要です。一方、(2)は、BtoB(企業向けサービス)の事業であれば、ある程度の予測はつけやすいと思います。

さて、(1)や(2)のアプローチができない場合ですが、とりあえず適当に書いてみようというのはいけません。(1)、(2)のアプローチができないものは、全部3の計算をたたき台にシュミレーションしていきます。それでは、(3)についてさらに細かくみていきます。

〜『小企業の経営指標』から売上目標の目安を知る方法〜

①従業員1人当たりの売上高から出す。(あらゆる業種)

②店舗面積1坪当たり売上高から出す。(雑貨屋などの小売店、飲食店)

③客席1席当たりの売上高から出す。(カフェ、喫茶店、スナック)

④椅子1台当たりの売上高から出す。(理容室、美容室)

①・・・・・・すべての業種に使えます。

②・・・・・・小売業、飲食業のように店舗面積の大きさが売上の大小に関わる業種は、『店舗面積1坪あたりの売上高』に予定している店舗物件の坪数をかけてみます。たとえば、『小企業の経営指標』から喫茶店の1坪あたりの売上は平均月10万円ほどだということがわかるので、例えば10坪のお店をやるとすれば100万円以上、20坪なら200万円以上が月の目標売上の目安となります。

なお、一坪あたりの月の売上を【月坪売上(つきつぼうりあげ)】といいます。飲食店経営では、『坪当たり』でいろいろな数字を見るのが一般的なので、飲食店をやろうとする方は、頭にとどめておいてください。

③・・・・・・カフェ、喫茶店、スナックの場合は、客席1席当たりの売上が載っていますので、②とあわせて1席当たり売上高からも検証を加えます。これにより予定している席数が平均値と比べて多いか少ないかを知ることができます。

例えば、喫茶店の1席当たり売上は平均で月60000円ですが、ここで10坪20席の店を予定していると仮定します。この場合、

60000×20=120

ですから、月坪売上は120万円と想定されます。②の事例の計算と20万円の差ですから平均からさほど外れていません。席数の観点からいえば、若干平均より席数が多い程度だということがわかります。

ここで②で計算した売上よりかなり低いと場合は、席数が平均より少なすぎることを意味しますので、もう少し席数を増やしてもよい可能性があります。逆に、②で計算した売上よりかなり高い場合は、席数が平均より多すぎることを意味しますから、この場合は、席を詰めすぎて狭くなりすぎないかを見直します。

ただし、これはあくまで平均値との比較ですから、自分がやろうとしている店のコンセプトなどを勘案する必要があることをお忘れなく。

ちなみに、飲食店の席数は、だいたい坪当たり1席ないし2席と言われています。普通の料理店で、坪あたり1.3〜1.5席、ゆったりした高級店なら坪あたり1席程度、逆に、にぎやかな居酒屋や客単価の低い喫茶店なら、坪あたり2席くらいでもいいでしょう。

④・・・・・・理容室や美容室であれば、椅子1台当たりの売上高をベースに目標売上を設定します。たとえば、椅子1台当たり売上高が月48万円で椅子が3台だとすると、

48万×3(台)=144万

よって、目標となる月の売上の目安は、144万円以上ということになります。

ここで①の視点を加えてみましょう。美容室の『従業員一人当たり売上(月)』は53万円ほどです。例えば、椅子3台の店で店主、店主の奥さん、社員1名、アルバイト1名で運営するとしましょう。アルバイトの数をいれると4人ですが、『小企業の経営指標』における「従業員一人当たり売上高」の従業員の数にはアルバイト・パートは入ってないので、従業員一人当たり売上高はこのケースでは3人で計算します。

53万×3(人)=159万

椅子1台当たりから算出した売上(月)144万円とだいたい一致していますから、スタッフ、椅子台数のバランスは問題ないことがわかります。

以上の数値は平均値から算出しているものなので、これをそのまま使うのではなくたたき台として個々の事情によってアレンジしていきます。例えば、喫茶店の月坪売上の平均は10万円ですが、本来であれば月坪売上15万円程度はほしいところです。これは『小企業の経営指標』に載っている業種平均の経常利益や営業利益がマイナスになっていることからもわかりますが、その業種全体の競争が激しくなって売上を上げるのが難しくなってきていることを意味します。これを打開するには徹底した差別化が必要ですが、そのポイントをしっかりと事業計画書でアピールすることが大切です。それが十分でないと審査担当者を納得させることができません。

なお、事業開始から6ヶ月は大半が赤字ですから、最初の6ヶ月は何割か割り引いた売上で予定表を作成しておきます。客商売であれば、事業開始当初は目標売上の6割くらいで計算しておいたほうがいいでしょう。そこから少しずつ固定客がつき、徐々に目標売上に近づくように予定を立てていきます。

3、売上原価の目安

売上原価(仕入・材料費)は、製品1個当たりの原価に予想の販売個数をかけて算出します。しかし、それらを合理的に予測できるケースはそれほど多くないでしょう。そこで、目標売上に「売上原価率(売上原価/売上)」を売上とかけ算して出す方法をとります。例えば、原価率30%となっている場合、

売上100万円なら売上原価30万円
売上200万円なら売上原価60万円
売上300万円なら売上原価90万円

と予想できますね。

予想売上原価=目標売上×売上原価率

ところが、「売上原価率」は『小企業の経営指標』には載っていません。売上や売上原価が載っていれば、[売上原価/売上]で売上原価率が出ますが、これらも載っていません。では、どうすればよいでしょうか。

それほど悩むことはありません。算数ができれば簡単です。売上原価率は「売上高総利益率」から逆算して出します。話をシンプルにするため結論からいうと

売上原価率=1−売上高総利益率

です。これだけです。

たとえば、売上高総利益率が0.7(70%)なら売上原価率は0.3(30%)、売上高総利益率が0.8(80%)なら売上原価率は0.2(20%)です。数字が苦手な人は、売上総利益率と売上原価率を足すと1(100%)になると覚えておいて下さい。

なぜそうなるかというと、「売上総利益」は俗にいう「粗利(あらり)」のことで、売上から売上原価(仕入れ)を引いたものだからです。

売上総利益(粗利)=売上−売上原価(仕入れ)

言い換えると 売上=売上原価(仕入れ)+売上総利益 と分解できます。

そして、売上に対する売上総利益(粗利)の割合を、「売上高総利益率(粗利率)」と言います。

売上高総利益率(粗利率)=売上総利益/売上

売上原価率は 売上原価/売上 ですから、売上総利益率と売上原価率を足すと1になるというわけです。

4、人件費の目安

人件費は、最初に予定する従業員の数、パート、アルバイトの数から、ざっと賃金の合計を出してみます。

次に、目標売上に『小企業の経営指標』の「人件費対売上高比率」(※)をかけます。

例えば、目標売上が300万円、人件費対売上高比率が30%なら、人件費は90万円以下が目安となります。

ちなみに(※)人件費対売上高比率= 人件費/売上高です。

最初に計算した人件費が平均値から出したこの目安より高すぎる場合は、一度見直しが必要です。

5、その他の諸経費の目安

その他の諸経費は、諸経費対売上高比率(%)を見ます。

諸経費対売上高比率=諸経費/売上高

目標売上高(月)が300万円、諸経費率20%と仮定すると、目安となる諸経費は300万×0.2から60万円以下ということになります。

『小企業の経営指標』にある「諸経費」に「人件費」は含まれませんので、注意して下さい。

『小企業の経営指標』にある「諸経費」に「人件費」は含まれていない

とすると諸経費は、家賃、水道光熱費、支払利息(借り入れの利息)、通信費(電話、インターネットなど)、広告宣伝費・販売促進費、消耗品などがあげられます。これらを60万円以下にするという想定で計画を立てていきます。

こうすることで事務所や店舗を借りるとき、どれくらいの家賃ならだいじょうぶかが大まかに予測できるようになります。

6、借入金の返済ができるかシュミレーションする

ここは金融機関が一番気になる部分ですから、怠らずに検証しておきましょう。

さて、ここで仮に600万円を返済期間5年の条件で借りるとすると、返済月数は60ヶ月(5年×12ヶ月)なので、毎月の返済額は、600万÷60=10万(円)となります。

ところで、法人でない個人事業者の場合、予想損益計算書や月次収支予定表の人件費欄には自分の給料は計上しません。そうすると、当期利益(A)が事業主の生活費(B)と月の返済額(C)を合わせた金額を超えていることが要求されます。(※当期利益は、粗利からさらに販売費・一般管理費や支払利息などを引いた最終的な利益です。)

当期利益(A)> 事業主の生活費(B)〈最低月25万円はみておく〉+毎月の予定返済額(C)

返済計画を立てたら、この式に当てはまるかどうかチェックして下さい。これが達成されていない場合、経費で多すぎるところがないか再度調整して作り直します。(※厳密には、減価償却費を当期利益に加えますが、少し専門的になってしまうので、ここでは簡略化しています。)

ちなみに法人の場合は、事業主の生活費は役員報酬として経費に計上されますから、A>CとなればOKです。

7、最後の仕上げ

目標売上のところでも少し触れましたが、『小企業の経営指標』を見ると、経常利益率や営業利益率がマイナスになっている業種が意外と多くあります。

それなら自分もマイナスになる予定損益計算書や月次収支予定表を出していいかというと、当然ですが、そんなことをしたら融資は絶対におりません。

アンケートの平均の値をとった経常利益率や営業利益率がマイナスになっているということは、業種全体の競争が激しくなっていることを意味します。金融機関の職員も、例えば飲食店が厳しいということくらいは知っていますから、審査においても、そういう目で見られることを前提にしっかりと対策しておく必要があります。経常利益率や営業利益率はプラスになるように計画を立て、どこの経費を削るか、また、他店や他の事業所とどこを差別化するかを突き詰めて、それを審査でアピールして下さい。

ところで、ここでよく起きる勘違いが価格を安くすることですが、価格だけで勝負しようとする発想は、たとえ売上が増加しても利益が減少する現象を招きます。

たとえば、ハンバーガーショップで、200円のバーガーを100円に値下げしたことで販売個数が2倍になったと仮定します。この場合、販売個数が2倍になっても値段が半分になっているので、販売個数と値段を掛けた売上金額は変わりません。

値下げ前:200円×1000個=200000円(売上)
値上げ後:100円×2000個=200000円(売上)

しかし、販売個数が2倍になったことで、バイトの人件費や材料費が2倍近くになっているはずです。この場合、売上は変わらないのにコストが増えるわけですから、利益はどうなりますか?コストが上がった分だけ減りますね。これが値下げ競争の怖さです。

基本的に、低価格戦略は大手企業のやることです。しかし、その大手でさえ低下価格路線で赤字になることがあります。2000年代前半のマクドナルドがその代表例です。当時マクドナルドは65円マックで価格破壊を打ち出しました。一時的には好調でしたが結果的にブランドイメージを損ない、2年後に創業以来初の赤字転落となりました。ほかにも牛丼チェーン店の価格競争は、目を覆うものがあります。

みなさんのような小企業が同じことをすれば、たちどころに赤字になります。小さな会社はマクドナルドのような低価格戦略ではなく、モスバーガーのような差別化戦略を目指しましょう。

差別化戦略とは、競合他社と違うユニークな点をアピールすることで競合に勝つやり方です。モスバーガーは、後発組で資金の関係からか駅から少し離れた立地ですが、独特の味で固定ファンを獲得しています。値段はマクドナルドほど安くありませんが、マクドナルドとはコンセプトも客層も異なるため、価格競争の影響を受けにくくなっています。また、フレッシュネスバーガーも後発組ながら、女性客をターゲットとしたメニュー構成で差別化を徹底して生き残っています。同社も値段は決して安くありません。

もしモスバーガーやフレッシュネスバーガーがマクドナルドと同じ土俵で値下げ競争をしていたら、今のポジションはなかったでしょう。

このページでは資金面での計画をメインにしていますのでマーケティングには深入りしませんが、ここでは価格より差別化で対抗するのが小企業の基本だということだけを知っておいて下さい。いまどき金融機関の担当者も、価格だけで勝負する店や会社が生き残れないことは知っています。

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