カレー屋の開業資金

序章 融資に向けたカレー屋の開業資金計画 全体像

 

カレー屋の主な経営指標

『小企業の経営指標』(日本政策金融公庫総合研究所編)から

従業員一人当たり売上高(月)

1,099,000円

店舗面積1坪当たり売上高(月)  

195,000円

売上原価率

34%

人件費対売上高比率

35%

諸経費対売上高比率

29%

 

カレー屋 20坪のケース

簡易月次収支予定表モデル(単位:円)

売上高

(月1坪当たり売上195000円)

3,900,000

売上原価〔材料費〕①

1,170,000

人件費 ②
(①+②:FLコスト 売上の60%以下)

1,170,000

家賃(売上の10%以下)

390,000

支払利息

33,000

その他経費

747,000

利益(売上の10%以上目標)

390,000

❖『小企業の経営指標』(日本政策金融公庫研究所編)ではカレー屋の月坪売上高(月の1坪当たりの売上高)は19万5000円だが、飲食店標準の月坪売上は15万円以上とされるので、カレー屋の月坪売上は飲食一般よりかなり高いと言える。

売上原価(材料仕入)と人件費の合計(FLコスト)は、飲食業界では売上の60%以下が望ましいとされるが、カレー屋の場合、原価率34%、人件費率35%でFLコストは69%となっている。目標としては60%以内をめざしたい。なお、表では原価率、人件費率ともに30%としてシュミレーションした。

家賃は売上の10%以下が目安 都市部や繁華街なら12%以下 それ以外は8%以下が目安。なお、都心の駅周辺は、月坪売上15万円を前提に計算しても家賃が15%以上になることは少なくない。その場合、客回転率、客平均単価の立地別データなども活用して、多角的な検証を加える。

利益は売上の10%以上を目標にする。
なお、融資を希望する金融機関に提出する予想損益計算書や月次収支予定表は、法人でない、つまり個人事業の場合は、人件費の覧にオーナーの給料を入れない。(下記に詳述)

❖その他経費については、下記に詳述

❖掲載の表はあくまでも平均的なモデル、目安です。各自の事情にあわせた独自性と整合性がないと融資の審査は通りませんのでご注意下さい。(サルマネはNGです!)

❖金融機関に借り入れの申し込みをする場合は、12ヶ月分の月次収支予定表と詳細な事業計画書を添付することをお勧めします。そのほうが融資の審査に通りやすくなります。

 

20坪のカレー屋 開業資金計画モデル

月坪売上19万5000円でシュミレーションした場合

 

資金運用先

資金調達先

①開業資金

2272〜

2790万円

②設備資金

1872〜

2340万円

 

③物件取得費468万円

(家賃12ヶ月分とした場合)

⑧公庫からの借入金

50

 

1136〜

1395

万円

④内外装工事

設備工事

厨房機器

その他備品

1404〜

1872万円

⑨自己資金

50

 

1136〜

1395

万円

⑤運転資金

400〜

450万円

⑥開業準備金50〜100万円

⑦経常運転資金350万円
(月商と同程度ないし9割)

余裕資金: 150万円〜200万円

オーナー生活費として6ヶ月程度、別枠でキープしておくことが望ましい。

カレー屋の開業の場合、設備資金にどれだけお金をかけられるかが、もっとも予測しづらいと思います。しかし、合理性をもってこれをシュミレーションできなければ金融機関から借り入れをすることはできません。

そこで、設備資金を中心に開業資金がどれだけ必要か、そして、自己資金と借り入れは、どのようになるのかを考えていきましょう。

 

②設備資金

予想年間売上から設備資金の投資許容額をざっと出してみます。設備資金の投資額は、だいたい年間売上高の40〜50%なら適正範囲とされます。

設備資金の投資許容額は、年間売上高の40〜50%

具体的に計算の過程をみてみましょう。

月坪売上19万5000円の場合:
19万5000円×20坪×12ヶ月=4680万円
4680万円・・・年間想定売上高(A)

設備資金投資額の目安(年間売上の40〜50%)
(A)の40%〜50% ⇒1872万円〜2340万円

この結果から、設備投資許容額は、だいたい1872〜2340万円程度までということがわかります。(想定月坪売上19万5000円、20坪のカレー屋の場合)

③物件取得費用

物件取得費用とは、店舗物件のテナント契約をするためにかかる初期費用です。前家賃、仲介手数料、保証金がそれに当たります。これらは合計すると、家賃の8ヶ月分から12ヶ月分くらいになります。(詳細は後述)
したがって、仮に家賃39万円の物件であれば、契約時に必要になるお金は、312〜468万円です。

なお、地方では保証金が3ヶ月分程度ですむ場合もあるようです。その場合は家賃5ヶ月分が物件取得費用です。

④内装工事、設備工事、厨房機器その他備品

設備資金の計算で一番ややこしいのは、この部分です。金額が大きい上、スケルトンか居抜きかでかなり変わりますし、地域や業態によっても価格にズレがあります。
そこで、②③から逆算することで先に④の大枠の数字を見積もっておき、その金額の範囲内で、工事業者、厨房機器、備品類を選ぶようにします。

④の上限値= ② − ③

この計算値を大きく超える場合は、相場より高すぎる可能性があります。

図では、次のような計算となっています。

(1738〜2172万円②)−(434万円③)=(1304〜1738万円④)

これは内装工事、設備工事、厨房機器、その他備品の費用が1152〜1536万円なら適正範囲内ということです。

なお、居抜きにすれば大幅に安くなりますが、居抜きは安いというメリットだけでなくデメリットもあります。値段だけで判断せず、総合的な見地からスケルトンにするか居抜きにするかを決めましょう。

⑤運転資金

運転資金はさまざまな種類がありますが、開業時の運転資金は、⑥開業準備金と⑦経常運転資金を合算したものと考えて下さい。

運転資金⑤= 開業準備金⑥+経常運転資金⑦

⑥開業準備金

仕入、チラシ・広告代、アルバイト募集広告代、制服代、許認可手続き費用などです。50万円から100万円程度用意しておきましょう。

⑦経常運転資金

俗にいうランニングコストです。現金商売の場合、売上の決済が何ヶ月もあとになることはないわけですから、基本的には月商と同額程度ないし9割のキャッシュを持っていれば、お店は回っていきます。ここでは月商390万円を想定していますので350万円とします。

⑧借入金

無担保・無保証人で利用できる日本政策金融公庫の新創業融資を利用する場合、自己資金が開業資金の3分の1以上必要です。とすると理論上は、無担保、無保証人で借り入れできるのは開業資金総額の3分の2までです。

しかし、上限いっぱいを融資してもらえるケースは多くありませんから、計画としては50%程度を想定したおいたほうがいいでしょう。

⑨自己資金

表では50%としましたが、親や友人からの借り入れも考慮すれば、自己資金が30%くらいになることは珍しくありません。

 

第1章 カレー屋 開業資金の基本知識

カレー屋 の開業には店舗準備のため多額の初期投資が必要となります。しかし、初めて事業をする人は、保証金や家賃、また工事費用にどれくらいお金を か けていいか見当がつかないものです。思い切りの精神もある程度必要ですが、合理的な計画がなければ大変な失敗をすることになりかねません。

投資額が大きい分、より慎重さが必要です。やみくもに開業する人と、合理的な計算にもとに設計図を作れる人では、その後の経営はもちろん融資の成否にも大きく影響してきます。

そこで、このページでは、カレー屋の開業資金について最低限知っておきたい予備知識をまとめてみたいと思います。

 

1、開業資金の融資制度

カレー屋の開業に利用できる融資制度は、日本政策金融公庫の【生活衛生貸付】というメニューがあげられます。これは設備資金について7200万円以 内 で融資を受けることができるというものです。また公庫の場合、「女性または30歳未満か55歳以上の人」を対象に【女性、若者/シニア企業家資金】という メニューもありますが、こちらは生活衛生貸付より金利面で若干優遇されています。

さらに、これらに【新創業融資制度】を併用することができますが、この制度が適用されると1500万円以内で無担保、無保証人の借り入れをすることができます。なお、「保証人なし」の場合は「保証人あり」の場合より金利が1〜2%ほど高くなります。

生活衛生貸付 :設備資金7200万円以内
女性、若者/シニア企業家資金 :7200万円以内 うち運転資金4800万円以内
新創業融資制度 :1500万円以内 無担保、無保証人可

 

2、開業資金の相場はいくらくらいか

カレー屋は、店舗の大きさによってかかる費用というのは大きく異なりますが、中小企業リサーチセンターの発行する『新規開業白書(日本政策金融公庫 総 合研究所編)』の統計を見てみると、飲食店の開業資金でもっとも多い数値(頻出値)は1000万円、平均値は1800円程度ということがわかります。内訳 は、500万円以上1000万円未満、1000万円以上2000万円未満がそれぞれ30%程度で、500万円未満、2000万円以上がそれぞれ20%程度 です。

ちなみに、自己資金は開業資金の30%が平均で、自己資金以外の調達先は、親の支援、友人からの借り入れ、公庫からの融資などです。

 

3、開業資金の内訳

(1)開業費用の分類

大きく分けて、①店舗取得のための費用、②店舗設計・施行等の費用、③その他諸費用にわけられます。

①店舗取得のための費用

保証金、仲介手数料、そして契約から開業までの家賃です。また、居抜き物件の場合、据え付けられている設備を買い取る費用(造作[ぞうさく]譲渡費用)が必要です。

②店舗設計・施行等の費用

デザイン・設計料、内装・外装工事費用、キッチン及び電気、ガス、水道、空調に関する工事費用、看板、家具類です。

③その他諸費用

レジ関係備品、食器、調理器具、清掃用具、トイレ備品、BGM用音響機器、ユニフォーム、観葉植物、装飾品、事務用品、仕入れ、スタッフ採用広告費用、宣伝広告費用など。

(2)物件取得の考え方

①家賃、保証金はいくらくらいかけてよいか?

家賃は固定費ですから慎重に物件選びをしたいものです。飲食店の場合、家賃は想定売上の10%以下が望ましいとされています。繁華街なら12%以下、そうでない場合は8%以下を目安とします。ただし、都心の繁華街ですと、15%をこえることは珍しくありません。

保証金は、家賃の10ヶ月以内が相場です。物件によりますが6ヶ月分くらいになることもあるので、できるだけ安くしてもらうよう交渉しましょう。なお、地方の場合は、3ヶ月分くらいの保証金ですむケースもあるようです。

物 件取得費は、前家賃1ヶ月分、仲介手数料1ヶ月分、保証金6〜10ヶ月分ですから、入居時に8ヶ月から12ヶ月分の家賃を用意する必要があります。物件取 得費は、融資の申請の際は「設備資金」として扱います。なお、一般に物件取得費といったとき、大家とのテナント契約費用のことをさしており、厨房機器や内 装工事代は含まれませんので間違わないようにしましょう。

家賃: 想定売上の10%以下 繁華街なら12%以下、住宅地なら8%以下
    都心の繁華街の場合は、15%をこえることあり
保証金は: 家賃の10ヶ月分以内とする。なお、6ヶ月分まで交渉の余地あり
店舗物件取得費: 家賃の8ヶ月〜12ヶ月分を用意する。

②客席数はどれくらいか?

客 席数は、店舗面積1坪当たり、一坪あたり1. 3〜2席くらいで考えます。カウンター中心の店であれば、1坪あたり2席前後になるで しょう。仮に1坪あたり1.5席とした場合、20 坪なら30席ということになりますから、これにあわせてテーブル、椅子を見積もります。

客席数は、店舗面積1坪当たり、1.3〜2席

 

第2章 収支計画、資金計画の立て方

 

1、売上目標をたてる

一般的に飲食店経営では、店舗面積1坪当たりの月の売上(月坪売上という)は15万円以上が望ましいとされています。しかし、カレー屋の場合、そもそも平均値が19万5000円なので、目標としては坪当たり20万円以上をめざしましょう。

では、どの数字を使えばいいかですが、融資向けの計画上は、慎重な数値による予測から先に立てていきます。できれば、月坪売上15万円以下の場合、18万円の場合、20万円の場合などのように2、3パターン作成しておくのもよいでしょう。

店舗面積と予想月坪売上から目標売上高を出したら、今度は客単価と席数からも検証を加えます。

客平均単価 × 席数 × 回転数 × 月の営業日数= 月売上高

たとえば、
月営業日数30日
※ 月の休日4日、金曜土曜は1.5日として換算
30日−4日+(0.5 × 8日〔金曜土曜〕)
席数30席

ランチタイム1000円
ディナータイム3300円
客席回転数1とすると

1000×30×1×30=90万円
3300×30×1×30=297万円

これでおおよそ、月の売上は387万円の想定になります。

 

2,材料費(売上原価)と人件費の目標値を決める

飲 食業界では、材料費と人件費が変動費のかなりの部分を占めることから、これらをあわせてFL(foodとlaborの頭文字)コストいい、経営上、重要な 指標として扱っています。このFLコストは一般に60%以内におさめることが望ましいとされます。仮に目標売上を390万円とすれば、材料費(売上原価) と人件費の目安は合わせて234万円以内ということです。

日本政策金融公庫の『小企業の経営指標』(2012年)では、カレー屋の 原価 率(売上原価/売上高)は33.5%、人件費率(人件費/売上高)は35.3%となっており、FLは68.8%です。しかし、目標としては60%以内が望ましいでしょう。

FLコスト(材料費+人件費)は、60%以内を目標とする

 

3、家賃

家賃は上述のとおり、原則として10%以下を目安とします。家賃とFLコストをあわせて、FLRコストといって70%を目安にする見方もあります。ちなみにRはrentのRです。

ただ、FLコストは変動費であるのに対し、家賃は固定費ですから、その区別は頭に入れておきましょう。

 

4、利益目標を決める

ここまで来たらその他の諸経費を計算する前に利益目標を先に設定しておきます。ここで言う利益は細かいことをいうと「償却前経常利益」ということになりますが、会計の知識がない人はとりあえず当期利益と理解しておけば十分です。

利益は、売上の10%以上を目標にします。10%と聞くと初心者は少ないと思うかもしれませんが、FLRコストで70%以上が支払に消え、さらに水道光熱費、支払利息、広告宣伝費などの支払いがあることを考えれば、10%の利益を残すのは大変なことがわかるかと思います。

ち なみに個人事業者の場合、借り入れ申し込み時に金融機関に提出する予想損益計算書や月次収支予定表(12ヶ月分記入する)は、自分の給料を人件費に入れず に作成しますが、『小企業の経営指標』が個人事業と法人を区別していないため、比較検証の段階では、オーナー人件費はひとまず人件費に入れてシュミレー ションします。

この目標値の利益は、毎月の借り入れ返済額を上回っていなければなりません。

目標利益は10%以上
目標利益 >毎月の借り入れ返済額

 

5、その他の諸経費の目標値を決める

最 後にその他の諸経費を決めます。売上、材料費(売上原価)、人件費、支払利息、家賃、目標利益が先に決まれば、逆算することで、その他の諸経費は自動的に 予算が決まってきます。ですが、全体のバランスがうまくいっているかを見るためにやはり小企業の経営指標をチェックします。

『小企業の経営指標』(2012)では、カレー屋の売上高対諸経費率(諸経費率と略すことにします。)は29.0%となっています。仮に想定売上を390万円とすると、諸経費はだいたい113万円以下が一応の目安となります。

ただし、ここでいう「諸経費」には、「家賃」が含まれていることに注意して下さい。『小企業の経営指標』の諸経費率の諸経費には、家賃が含まれているので す!一般には諸経費率は15%程度とされますが、『小企業の経営指標』の諸経費率が30%近くもあるのは、ここにからくりがあります。これを理解していな いと計算がまったく合わず、とんだ間違いを犯すことになります。

さて、最終的に諸経費の予算が決まったら、予算内で水道光熱費、通信費(電話代など)、広告宣伝費・販売促進費などをまかなえるように計画を立てます。このうち半分くらいは水道光熱費になると思われます。

①売上高

 

②売上原価(材料費)

 

③経費

④人件費

 

⑤家賃

 

『小企業の経営指標』の諸経費率の諸経費

⑥支払利息

一般に言われる

諸経費率の諸経費

⑦その他の経費

⑧当期利益(①—②−③)

 

  •  売上①からFLコスト[②+④]と家賃⑤、さらに目標利益⑧を差し引いた額から諸経費予算[⑥+⑦]を見積もる
  • 『小企業の経営指標』にある諸経費率対売上高(諸経費率)を予想月売上高にかけ算して、その他の諸経費[⑤+⑥+⑦]を出します。そしてさらに、そこから家賃⑤を差し引いて[⑥+⑦]をだす。
  • 1,2の金額を比較検討する。
  • ⑥(支払利息)と⑦(水道光熱費、通信費、広告宣伝費・販売促進費など)が諸経費の予算でまかなえるかを確認する。

 

6、返済のシュミレーションをする

(1)検証段階

最後に返済のシュミレーションをします。売上から材料費(売上原価)、人件費、家賃、支払利息、その他の経費を差し引いた最終的な利益(当期利益)が、借入予定額の毎月の返済金額をこえているかをチェックします。

①売上高

②売上原価(材料費)

③経費

④人件費

⑤家賃

⑥支払利息

⑦その他の経費

⑧当期利益(①—②−③)

⑧ ≧  ①の10%(逆にいえば①売上は⑧の10倍以上になるように計画する。)
⑧ > 毎月の借り入れ返済額

毎月の返済額は、たとえば公庫から1000万円を7年返済で借りるとすると、

1000万÷(12ヶ月×7年)=11万9048(円)

となり、毎月の返済額は12万円程度ということになります。
⑧の金額が、この金額を上回っていれば問題ありません。

当期利益 > 毎月の予定返済額

(2)金融機関に借り入れ申込書を提出する段階

起 業を企画し、おおまかな開業資金を検証する段階では①で問題ありませんが、個人事業者が金融機関へ出す借入申込書に添付する予想損益計算書・月次収支予定 表(12ヶ月分記入する)は、オーナー給料を④の人件費覧に入れずに計算します。そのため、当期利益は以下のようになっていなければいけません。

当期利益(A)> オーナーの給料(B)〈最低月25万円はみておく〉+毎月の予定返済額(C)

法人の場合は、Bは経費の中に計上されるため、A>CとなればOK

返済計画を立てたら、この式に当てはまるかどうかチェックして下さい。これが達成されていない場合、経費で多すぎるところがないか再度調整して作り直します。(※厳密には、減価償却費を当期利益に加えますが、少し専門的になってしまうので、ここでは簡略化しています。)

office-egawaをフォローする
開業資金と融資対策 “虎の巻”
タイトルとURLをコピーしました